先日国会で、衆議院の議員定数を削減する法案が提出されました。削減の対象となるのは比例代表。いま削られようとしているのは「無駄」ではなく、新しい人や多様な声が政治に入っていく「入口」です。
守りたいのは、自分たちの議席ではありません。
多様な声と、次に挑戦する人の入口です。
「身を切る改革」を掲げて、衆議院の比例代表だけを削る法案が国会に提出されています。与野党の協議が1年以内に着地しなければ、比例代表の176議席から45議席分が、自動的に削られる——そう明記された法案です。
チームみらいは、以下の観点から、この法案に強く反対しています。
「身を切る改革」として、いま国会で議員定数を削減する法案の審議が進もうとしています。与野党の協議が1年以内に着地しなければ、衆議院の比例代表の議席だけを、176議席から45議席分、自動的に減らす——そう明記された法案です。協議が整わないかぎり、比例だけが削られていく仕組みです。
ただ、その前に立ち止まって考えたいことがあります。そもそも「議員は多すぎる」のでしょうか。実は日本の国会議員は、人口当たりで見ると国際的にはむしろ少ないです。議員1人が背負う国民の数(少ないほど、声が届きやすい)をG7で並べると、その手薄さがはっきりします。注1
議員1人が代表する国民の数(G7比較)
国会議員1人あたりの人口。バーが長いほど、1人で多くの国民を受け持っている=議会の規模が小さい。
日本と英国では、議員1人当たりが背負う国民の数におよそ3.8倍の開きがあります。「多すぎるから減らす」という出発点そのものが、データと食い違っています。
問題は、議員の数ではありません。いまの選挙制度(小選挙区比例代表並立制)は、多様な声を映す比例代表と、議席の多くを占める「勝者総取り」の小選挙区を組み合わせた制度です。その比例だけを削れば、勝者総取りの効果だけが強まり、もともと大きな政党が、いっそう有利になります。
これは印象論ではありません。まず、データで見てみましょう。
注1議員1人当たり人口のG7比較は衆議院調査局第二特別調査室「選挙制度関係資料集」(2025年版)。日本17.5万人・英国4.6万人・フランス7.0万人・カナダ8.7万人・イタリア9.8万人・ドイツ11.9万人・米国63.2万人。人口当たり議員数がOECD38か国中36番目という比較は東京新聞(2025年11月、IPU 2025年の定数と国連人口データにもとづく下院ベースの算出)および参議院「経済のプリズム」No.207(2021年、OECD下院ベースで少ない方から3番目)による。米国は連邦制の特殊事情があり、単純比較から除外。指標を「絶対数」でなく「人口当たり」で見た場合の比較です。
2026年衆院選では、自民は得票42.9%に対して、議席は68.0%。得票より25ポイントも多い議席を占めています。大きな政党ほど得票以上に議席がふくらみ、中小政党は得票より議席がやせ細る——この得票と議席のズレこそが、「勝者総取り」の選挙制度のために生まれています。下のグラフは、各党の得票率(小選挙区と比例で投じた票を政党ごとに合算したもの)と議席占有率(全465議席)を、それぞれ100%の帯にして並べています。
| 政党 | 議席数 | 得票率 | 議席占有率 | 差 |
|---|
▲ 得票率は2026年衆院選で各党が小選挙区と比例代表で得た票をすべて合算し、全国の総得票(約1億1,371万票)に占める割合として算出。議席占有率は小選挙区を含む全465議席に占める割合。差は「議席占有率−得票率」(プラスは得票以上に議席を得ている=過剰代表)。表は議席数の多い順に並べています。出典:総務省。四捨五入のため合計が100%にならない場合がある。
得票率と議席占有率の差が、そのまま「議席に届かなかった声」の大きさです。当選しなかった候補や小さな政党に投じられた票(死票)は、議席に結びつきません。死票の多さは、投票率の低迷や、若い世代が政治から離れる一因にもなっています。
では、その差はどこで生まれているのか。同じ自民党を「小選挙区」と「比例代表」に分けて、得票率と議席占有率を並べると、ズレの大きさがまるで違います。注2
自民党:得票率と議席占有率の差(小選挙区 vs 比例代表)
小選挙区は、得票49%で議席の86%を占める「勝者総取り」。一方の比例代表は、得票37%に対して議席46%(名簿の制約を外した本来の値)で、ズレは+9ポイント。大きな歪みを生んでいるのは小選挙区(+37pt)で、比例のズレ(+9pt)ははるかに小さいとわかります。
▲ 2026年衆院選。小選挙区は自民の小選挙区での得票率と、小選挙区289議席に占める割合(249/289)。比例代表は自民の比例得票率と、名簿の制約を外した本来の比例議席(約46%)。実際の比例議席は67/176=約38%。出典:総務省。四捨五入のため差の表示は概数。
つまり、歪みの正体は小選挙区にあり、比例はその歪みを和らげる装置です。その比例だけを削れば、得票率と議席占有率の差は広がり、より死票が増える結果となります。国民の声をしっかりと政治に届けるためには、まず手をつけるべきは比例ではありません。
では、比例を実際に削るとどうなるか。次の表は、2026年衆院選の確定得票をもとに各党の比例議席を、①実際の結果(実績)/②名簿の制約を外した純ドント計算/③45議席削減後(131議席)の3とおりで並べたものです。削減45議席の打撃は、中小政党に集中します。注3
比例代表の議席:実績/純計算/45削減後の比較
| 政党 | 現状① 実績 176席 | 現状② 名簿制約なし 176席 | 削減後③ 131席 | ②→③ 占有率 増減 |
|---|---|---|---|---|
| 合 計 | 176 | 176 | 131 | — |
与党(自民+維新)と野党で合算すると
名簿の制約を外した同じ計算方法(純ドント)で比例を45議席削ると、与党(自民+維新)の減りは19議席、野党は26議席。比例176席に占める与党の割合は53.4%→57.3%へ上がります。比例を削るほど、与党の取り分が増える構図です。
(実際の現在の議席は自民67+維新16=83で、ここからだと47.2%→57.3%。自民は名簿不足で本来より少なくとどまっています。)
▲ 名簿の制約を外した純ドント方式どうしの比較(与党=自民+維新 94→75席、野党=それ以外の全会派 82→56席)。同じ計算方法で比べることで削減そのものの影響を正しく捉えられる。実際の現在の議席(名簿除外ルール適用後)は与党83・野党93だが、自民は名簿不足で本来より少なくとどまっている。出典:総務省速報PDF(令和8年2月8日執行)。注4
与党に有利な制度を、与党自身の手で、さらに与党有利にしようとしている——これは抜本的な政治改革とは、とても言えません。
注2小選挙区:自民の小選挙区得票率(約49%)と小選挙区289議席に占める割合(249/289=約86%)。比例代表:自民の比例代表(全国)得票率(36.7%)と比例176議席に占める割合(67/176=約38%)。グラフでは名簿の制約を外した本来の比例議席(約46%)を表示しています。いずれも2026年衆院選、出典は総務省。得票率・占有率は数え方や四捨五入により数値が変動します。
注3本シミュレーションは「比例代表を45議席削減する」という前提で試算したものです。実際に提出された定数削減法案の削減内訳・配分方式は報道により幅があり、最新の条文にあわせて更新する場合があります。
注4総務省速報PDF(令和8年2月8日執行)にもとづく試算。ドーナツ図は名簿の制約を外した純ドント方式どうし(176議席→131議席)の比較で、削減そのものの影響を同じ計算方法で示したもの。与党は自民+維新、野党はそれ以外の全会派として合算。実際の現在の議席(名簿除外ルール適用後の確定値)は与党83で、自民の比例議席は名簿候補者の不足により本来より少なくとどまっている。配分方式や前提により数値は変動します。
なぜ比例を削ると歪みが加速するのか。それは「比例代表」と「小選挙区」が、性質のまるで違う仕組みだからです。
各地域で一位になった人だけが当選。知名度・地盤・組織を持つ候補が圧倒的に有利になり、新人や地盤を持たない多様な人には高い壁になります。
政党全体への票の割合に応じて議席が決まる。これまで政治に縁のなかった人、若い人、新しい政党が挑戦できる、数少ない「入口」です。
比例代表の議席は、既存の政治にない視点を持つ人や若い人が国政に挑戦する、数少ない入口として機能してきました。政治を限られた人のものにしないための重要な議席です。私たちチームみらいの衆議院議員も、全員が比例から生まれています。だからこそ、その入口が静かに狭められていく怖さを、実感を持って語ることができます。
「比例は多様な人の入口」というのは、印象論ではありません。同じ国会議員でも、どの選挙制度で当選したかで顔ぶれがはっきり変わります。比例で当選した議員ほど女性が多く世襲が少なく、小選挙区で当選した議員ほど女性が少なく世襲が多くなっています。注5
図1:女性議員の比率(衆議院・当選した選挙制度別)
比例で当選した議員のほうが、女性が2倍以上多い。同じ衆議院でも、入口の制度で顔ぶれが変わります。
▲ チームみらい算出値(現職衆院議員の名簿をもとに公開情報ベースで集計)。横軸は実数(0〜100%)。注5
図2:世襲議員の比率(衆議院・当選した選挙制度別)
小選挙区で当選した議員のほうが、世襲が約3倍多い。地盤を引き継げる小選挙区ほど、顔ぶれは入れ替わりにくくなります。
▲ チームみらい算出値(現職衆院議員の名簿をもとに公開情報ベースで集計)。世襲は「3親等以内の親族に、国会議員または同一・隣接選挙区の地方議員・首長として当選した者が1名以上いる」者と定義。横軸は実数(0〜100%)。注5
国全体で見ても、日本の国会は属性が偏っています。女性議員比率はG7で最低である一方、世襲議員の比率は突出して高い。比例という入口は、この偏りをやわらげる数少ない経路です。
② 世襲議員が多い(国際比較)
日本の世襲議員比率は25%超。ドイツ・韓国・カナダはほぼゼロ、米英の下院でも5〜10%程度で、国際的に見て突出しています。地盤を引き継げる仕組みは、無名の新人にとって高い壁になります。注7
③ 新人が生まれにくい(新陳代謝)
選挙のたびに生まれる新人議員の割合は、日本の衆院では17〜21%。G7各国の25〜40%を下回ります。他国と比較しても、新しい人が入りにくい構造です。注8
「日本は女性が少なく世襲が多いのは、お国柄だから」——そう片づけられがちです。けれど国際比較は選挙制度との関係を示唆しています。女性議員が多い国、世襲が少ない国、新陳代謝が活発な国に共通するのは、比例代表を厚く採り入れているという制度の違いです。多様性は文化ではなく、入口の設計から生まれています。注9
図3:女性議員比率と、選挙制度の関係(下院)
比例代表を厚く採り入れている国ほど、女性比率は高くなります。日本だけ、小選挙区を主軸にしたまま取り残されています。
▲ 女性比率はIPU Parline(2026年6月1日時点・下院ベース)。各国の制度区分・世襲・年齢構成はチームみらいによるG7各国・約5,500名の議員データ集計値。制度以外の要因(クオータ制など)も影響します。
注5図1・図2:チームみらい算出値(現職衆院議員の名簿をもとに公開情報ベースで集計)。衆議院について「当選した選挙制度区分」ごとに女性比率・世襲比率を算出したもの。世襲は「3親等以内の親族に、国会議員または同一・隣接選挙区の地方議員・首長として当選した者が1名以上いる」ことを定義として集計。
注6女性議員比率(衆議院14.6%)・国際比較・世界平均(27.4%)は、IPU Parline(2026年6月1日時点)による。女性比率は基準日・定義(衆院のみ/両院、議員/候補)により数値が変動します。
注7世襲議員比率:日本・各国とも、Daniel M. Smith研究(世襲政治の比較研究・下院ベース)の国際比較データ。世襲の定義・調査時点により数値は変動します。図2・注5の国内世襲比率(チームみらい算出値、3親等以内の親族に議員等がいる者)とはここでの定義が異なるため、単純に比較することはできません。
注8新人議員比率:衆院調査局資料、各国議会データにもとづく概数。
注9制度と多様性の関係:チームみらいによるG7各国・約5,500名の議員データ集計値にもとづく。女性比率(イタリア32.8%・カナダ30.6%、2026年6月1日時点)はIPU Parlineによる。世襲・年齢構成はチームみらい集計。比例代表を厚く採る国ほど女性比率・新陳代謝が高く世襲が少ない、という相関は国際比較で一貫して見られますが、クオータ制など制度以外の要因も関わります。
比例議席の数を削ることは、
実は新陳代謝を止める「門前払いの改革」です。
現状の歪みや死票の多さは、削減ではなく制度の設計で直せます。私たちが提案している選挙制度改革案の柱が、この2つです。
候補者に「1位・2位・3位…」と順位をつけて投票する方式。過半数に届く候補が出るまで、最下位の票を次の希望へ移していきます。「当選しないかも」と気にせず本当に支持したい候補を1位に書くことができ、死票が大きく減ります。
比例の議席を各党に割り振る計算方式のひとつ。いまのドント式は大政党に有利になりがちですが、サンラグ方式は中小政党にも議席が回りやすく、得票率と議席の割合のズレが小さくなります。法改正だけで実現できます。
| 割る数 | A党500 | B党320 | C党100 | D党80 |
|---|---|---|---|---|
| ÷1 | 500 | 320 | 100 | 80 |
| ÷2 | 250 | 160 | 50 | 40 |
| ÷3 | 166.7 | 106.7 | 33.3 | 26.7 |
| ÷4 | 125 | 80 | 25 | 20 |
| 議席 | 4 | 3 | 0 | 0 |
| 割る数 | A党500 | B党320 | C党100 | D党80 |
|---|---|---|---|---|
| ÷1 | 500 | 320 | 100 | 80 |
| ÷3 | 166.7 | 106.7 | 33.3 | 26.7 |
| ÷5 | 100 | 64 | 20 | 16 |
| 議席 | 3 | 2 | 1 | 1 |
▲ 商の大きい順に7議席を配分(色つき=議席獲得)。サンラグ式は割る数が 1, 3, 5… と早く大きくなるぶん、大政党の2議席目以降が出にくく、中小政党(C・D)にも議席が回ります。配分のしくみを単純化したイメージで、実際の議席は各党の得票数で決まります。法改正だけで変更できます。
ほかにも、被選挙権年齢や供託金の引き下げ、インターネット投票など、挑戦の入口を広げる施策を提案しています。問うべきは「45議席を削るかどうか」ではありません。なぜ45人なのか、なぜ1年で決めるのか、その根拠は最後まで示されていない。結論ありきで急ぐのではなく、協議会で制度全体を熟議する。それが本物の政治改革だと、私たちは考えます。
比例代表だけの削減を、結論ありきで押し通すべきではありません。よりよい制度をいっしょに考えていくために、あなたの声を聞かせてください。