2026年10月26日
チームみらい
AIの社会実装と仕事・雇用の変化への備えに向けた提言
―「AI産業革命」の恩恵を享受し「AI失業」のショックに備える―
Ⅰ.AIをめぐる現状認識
―なぜ今、「AI失業」に備える必要があるのか―
2026年8月から9月にかけて、チームみらいは米国、中国及びフランスを訪問し、AIの研究開発や社会実装に携わる研究者、経営者、政府関係者等との意見交換及び現地調査を行った。あわせて、日本の現状を把握するため、AIが聞き手となる匿名のオンラインインタビュー(以下「AIインタビュー」という。)を実施した。
1.AIをめぐる競争は、研究開発から「社会を変える競争」へ広がっている
各国でとられるアプローチは異なるものの、現地訪問を通じて確認されたのは、AIの性能向上にとどまらず、研究開発の成果を産業活動、行政サービス、そして国民生活へと迅速かつ大規模に展開する動きが進展していることである。その光景は、かつての産業革命がそうであったように、AIが一部の産業にとどまらず、社会のあり方そのものを変えつつあることを予感させるものであった。フィジカルAIの量産と実環境への展開や、行政部門におけるAI利用基盤の整備(Direction interministérielle du numérique, n.d.)など、先端技術を研究開発の段階から実社会へ実装する取組が進められていた。
現地で確認されたものは、社会実装の広がりだけではない。各国での意見交換では、第一線の研究者たちから、AIによる仕事や専門性の変容を非常に短い時間軸で捉える声も聞かれた。米国では、最先端のAIモデル開発に携わる研究者から「自分のAI研究者としての賞味期限はあと1年だと思う」との言葉を聞いた(安野, 2026a)。また、フランスで意見交換を行ったフィールズ賞受賞数学者のセドリック・ヴィラニ氏は、わずか1年前まで数学はAIの影響を最も受けにくい分野だと考えていたが、この1年で認識が逆転し、「もはや数学の世界は終末的状況(アポカリプス)にある」と語った。さらに、研究の最前線のみならず、若手研究者の育成やキャリアにも大きな変化が生じ得るとの危機感も示した(安野, 2026b)。
もちろん、こうした将来の見通しや懸念が現実化するか否かを現時点で確定的に予測することはできない。しかし、異なる専門領域の第一線にいる研究者たちが、仕事や専門性の変化をこれほど短い時間軸で捉えているという事実そのものは、AIがもたらす変化の速度と影響力の大きさを測る上で、見過ごすことのできない重要な材料である。
このように、社会実装の広がりと、仕事や専門性の変化をめぐる声を併せてみると、AIをめぐる国際競争は、単なる研究開発力だけでなく、その成果を社会に実装し、経済・行政・国民生活における価値へ転換する速度と規模を競う段階——すなわち「社会を変える競争」へと広がっていると考えられる。
2.AIの恩恵を広げつつ、変化に柔軟に対応できる社会をつくる
こうした状況を踏まえ、日本においても研究開発を推進するとともに、その成果を迅速かつ適切に社会実装につなげていく必要がある。
同時に留意すべきは、AIによる変化がすべての人に同じ形で恩恵をもたらすわけではなく、変化の過程で負担や不利益を受ける人も生じ得る点である。また、技術の進展に制度や人の側の適応が追いつかなければ、その便益を十分に活かすこともできない。だからこそ、AIの便益を広く社会に届けることと、制度や人がこうした変化に対応できる環境を整えることを、並行して進める必要がある。
その一つが、制度そのものを技術の変化に対応できるものにしていくことである。制度が従来の技術や実施方法を前提としたままであれば、新たな技術が実用可能となっても、その利用に必要な行政判断や制度上の取扱いが明確になるまでに時間を要し、社会実装の制約となる可能性がある。すでに政府においても、AIの社会実装に関わる規制・制度の見直しは政策課題として位置付けられているが(内閣府, 2026a; 内閣府, 2026b)、今後求められるのは、安全性や権利保護等の制度目的を確保しながら、必要な行政判断と規制・制度の見直しを、技術の変化に対応できる速度で進め、その成果を現場での利用へつなげていくことである。
3.「AI失業」をめぐる懸念も含め、仕事・雇用の変化を早期に捉え、必要な備えを進める
こうした社会の変化の中でも、仕事・雇用は、人々の所得や生活に直接関わる重要な領域である。仕事は、所得を得る手段であると同時に、実務経験を蓄積し、能力や専門性を形成し、その後のキャリアを築く基盤でもある。採用や仕事内容の変化は、当面の所得や雇用だけでなく、実務経験や能力形成の機会を通じて、中長期的な就業機会にも影響し得る。
こうした仕事・雇用への影響をめぐっては、AIの導入・普及を背景に、人が担う仕事が減り、働く人が職を失ったり、新たな仕事に就けなくなったりする、いわゆる「AI失業」がしばしば論点となる。生成AIを中心とするこれまでの研究では、日本も含め、現時点で経済全体に大規模な雇用喪失が広く確認されているわけではない。他方、海外においては、仕事内容や組織運営、若年者の就業機会などへの初期的な変化が報告され始めている(Merola et al., 2026)。
例えば、スタンフォード大学による米国の調査研究では、生成AIへの曝露度が高い職種で若年層の雇用が減少しており、特にソフトウェア開発職では約20%減少したことが示されている。同研究は、こうした変化を雇用への影響を早期に示す「炭鉱のカナリア」と形容している(Brynjolfsson et al., 2025)。AIインタビューでも、「どこの会社も内製するようになり、仕事が減っていて再就職もできないと思っている」(デザイン業)との声が寄せられた(チームみらい, 2026)。「AI産業革命」の到来を思わせる変化の実感は、研究の最前線に限らない。
もっとも、AIの影響は、雇用の喪失という形だけで表れるものではない。AIには、人の知識や判断を補助し、能力発揮や仕事の質を高める可能性がある。AIインタビューでも、「論文調査に1週間で2~3日費やすこともありました。今は20~30分で完了してしまいます」(研究職)、「プログラムの経験がないひとも、初見のツールでもAIに聞きながら業務用アプリを作成できた」(会社員)といった、AIによる業務効率化や能力補完を実感する声が寄せられた(チームみらい, 2026)。
一方、AIを利用する機会や、学習・職場で活用するための条件は一様ではなく、その便益へのアクセスにも差が生じ得る(OECD, 2025)。また、変化に対応するために利用できる時間、資金、学習機会等も、それぞれが置かれた状況によって異なる。AIによって創出される新しい仕事への転職や、そのための新たなスキル・能力の獲得には一定の時間を要する可能性があるほか、転居などの生活上の制約から直ちに対応することが難しい場合もある(OECD, 2025)。
さらに、AIによる仕事の変化は、雇用の喪失に至らない場合であっても、業務の進め方や労働条件、AIを用いた評価・管理、労働者データの取扱いなどを通じて、働き続ける人にも影響を及ぼし得る(Milanez et al., 2025; OECD, 2025)。
こうした点を踏まえ、AIによる仕事・雇用の変化を早期に捉え、人々が変化に適応するための時間と機会を確保するとともに、雇用・所得や労働条件の変化に応じて必要な支援・保護が機能する状態を整えることも重要である。
以上を踏まえ、本提言では、AIの社会実装を支える規制・制度改革と、仕事・雇用の変化に対応する労働政策を二つの柱として、政府に以下の対応を提言する。
Ⅱ.提言
1.AIの社会実装を支える規制・制度改革
政府は、AIの社会実装を支える規制・制度について、既存の取組を着実に進めつつ、以下の対応を実施すべきである。
(1)規制・制度上の課題を横断的に把握し、必要な対応につなげる
政府は、官民投資ロードマップ等で把握された規制・制度上の課題について、所管府省庁、対応方針及び進捗を横断的に整理し、必要な規制・制度の見直しへ確実につなげるべきである。対応方針が定まっていない課題についても、その後の取扱いを明らかにすること。
また、規制改革実施計画で整備することとされた一元的窓口については、相談先の案内や案件の振分けにとどめず、各種の規制改革関連制度の事前相談を開始できる入口として機能させるべきである。その際、事業概要や相談事項等の共通する情報については、一度提出した内容を関係する制度間・府省庁間で可能な限り引き継ぎ、同じ情報の再提出を減らす仕組みを整えること。
さらに、規制・制度を見直した場合には、新たに利用できる技術や実施方法、その利用条件及び必要な手続を、地方公共団体や事業者等に分かりやすく示すこと。
(2)新技術の社会実装を見据え、制度・行政手続を先回りして整える
新たな技術・サービスの審査・評価方法では、時間と費用を要する実験や試験の実施が求められる場合がある。一方、技術の進展により、その一部をAIによるシミュレーションや分析で代替できるようになる可能性がある。こうした新たな評価方法が利用可能になっても、制度上の受入れの考え方が整っていなければ、従来の実験や試験が引き続き求められ、社会実装の遅れにつながりかねない(Amodei, 2026)。
このため、各所管府省庁は、所管分野の技術動向を継続的に把握し、新たな技術・サービスが実用段階に達する前から、安全性や権利保護等の制度目的を確保しつつ、その受入れに必要な制度上の取扱い、利用条件、基準等を検討すべきである。例えば、従来の実験や試験の一部をAIによるシミュレーションや分析で代替できるようになった場合には、一定の条件を満たせば新たな評価方法を利用できるよう、受入れの考え方をあらかじめ整理すること。
あわせて、法令等の新設・改正に当たっては、人による実施・確認や特定の技術・機器を不必要に固定しない制度設計とすべきである。制度目的や必要な安全性・確実性等を確保できる場合には、技術の進展に応じて別の実施方法を選択できる余地を確保すること。
また、こうした観点を、デジタル法制審査をはじめとする既存の法令立案・審査の過程に反映することを検討すべきである。その際、既存審査との重複や、制度目的・リスクに見合わない確認に伴う負担を生じさせないよう留意すること。
このほか、規制・制度の新設・改正に伴って設ける申請、届出、認定等の行政手続については、単に紙の手続を電子メールやPDFに置き換えるだけでなく、入力された情報を行政内部で処理・再利用でき、申請から処分までデジタルで完結できる形を基本とすべきである。
(3)AIを活用し、既存の規制・制度を継続的に点検・改善する
政府は、法制事務における生成AIの活用を、法案作成や審査等の効率化にとどめず、既存の規制・制度の継続的な点検・見直しにも広げるべきである。各所管府省庁において、技術や社会の変化に合わなくなった規定、制度間の不整合、不必要な規定・手続の重複等について、見直しの対象となり得る箇所を横断的に抽出できるようにすること。
その一例として、従来の文言やキーワードによる検索に加え、AIを用いて意味内容や法的概念の単位で法令を横断的に点検し、全体の構造を整理して見通しをよくする、いわば法律・制度の「リファクタリング」の手法も活用することが考えられる。その際、AIによる抽出結果は、各所管府省庁において職員が確認した上で、制度・運用の見直しに活用すること。
2.AIによる仕事・雇用の変化に対応する労働政策
上述のとおり、AIが労働市場に与える影響に関するこれまでの研究では、現時点において大規模な雇用喪失が確認されているわけではない(Merola et al., 2026; OECD, 2025)。とりわけ日本においては、人手不足基調とともに、長期雇用、新卒一括採用、企業内での配置転換などで特徴づけられる雇用慣行を有する企業が多いことを背景に、その影響が直ちに失業率の上昇として表れるとは限らない。しかしながら、タスク単位でのAIによる業務の効率化、企業内の職務再編、採用計画や求人要件の変容、派遣・有期雇用の契約更新への影響など、複数の経路を通じて表れる可能性がある。
したがって、政府は、AIによる労働市場の変化と人々の適応状況を継続的に把握し、その結果を政策判断につなげるとともに、能力形成・就業支援、生活保障、労働者保護等を通じて、AIによる変化に対応できる労働市場の形成に取り組んでいくべきである。
また、AIの活用は、雇用の有無だけでなく、人事評価・雇用管理等を含む働き方にも影響し得る。企業においては職場でのAIガバナンスを整備・見直すとともに、政府においては、失業や所得減少が生じた場合に必要な支援へ速やかにつながる仕組みを整えるべきである。
(1)仕事・雇用の変化と人々の適応状況を継続的に把握し政策判断につなげる
政府は、AIの急速な発展に伴う仕事内容・スキルニーズ、労働環境等の変化と、人々がそれらの変化に適応できているかを把握するための調査研究に積極的に取り組み、その結果を踏まえ、必要な支援や制度の見直しを機動的に判断すること。
その際、職種、産業、年齢、性別、雇用形態、企業規模、地域等の様々な属性によって、変化の表れ方や適応の難しさが異なる可能性に着目するとともに、必要な支援へのアクセス状況や適応を阻害している要因を検証すべきである。
また、内閣府・厚生労働省をはじめとする関係省庁が緊密に連携し、必要に応じて調査研究の内容・調査手法などを検討するとともに、分析結果と政策上の課題を定期的に取りまとめ、必要な支援の重点化や制度・運用の見直し等に適切に反映すべきである。
(2)仕事・雇用の変化と人々の状況に応じて能力形成・就業を支える
政府は、AIによる仕事・雇用の変化と人々が直面する個別の制約を踏まえ、能力形成・就業支援の対象や内容、提供手段を見直し、本人の経験や希望に応じて必要な支援を利用できる環境を整えるべきである。
当該支援に当たっては、本人が培ってきた職務経験等を活かしつつ、新たに求められる能力を身につけられるよう、キャリア相談支援の活用等を通じて、労働者の希望に応じた多様なキャリア・パスが実現できるよう伴走型の支援を実施すること。
また、学校から職業生活への移行期にある若年者に対して、企業や教育機関は、実務を通じたAI活用の経験を提供しながら、判断力や専門性を養っていくべきである。政府は、こうした採用・育成や実務経験の機会が確保されるよう、企業等の取組を制度面から後押しすること。
あわせて、就職氷河期世代や非正規雇用で働く人のうち、これまで能力形成の機会を十分に得られなかった人に対しては、勤務時間や育児・介護等の事情に応じて利用できる訓練・相談を十分に提供し、職務経験を活かしたAIの活用や転職等を一層支援すべきである。
また、自発的に支援を利用しにくい人や、勤務時間、育児・介護、費用等の制約を抱える人にも能力形成・就業支援が届くよう、相談への接続、利用時間の柔軟化、時間的・費用面の負担軽減等を組み合わせるべきである。
公的職業訓練については、AIの技術・利用動向や労働需要の変化を踏まえ、必要となる知識・スキルに応じて訓練内容を機動的に見直すべきである。あわせて、例えば修了後の就職や賃金の変化等、受講後の成果を適切に把握し、その結果を訓練内容や支援の改善に反映すること。
フランスの職業訓練学校「42」でも、AIの進展に合わせてカリキュラムや評価方法を見直し、AIを活用しながら本人自身の能力形成を確認する試みが行われていた(安野, 2026b)。こうした事例も参考に、AI時代の訓練では、技術を使う能力と本人自身の能力形成を両立させる視点が重要である。
(3)AI時代に対応した生活保障と労働者保護
政府は、AI時代の仕事・雇用の変化に対応するため、能力形成や就業移行の過程で必要な支援が途切れないよう、既存の生活保障制度が仕事・雇用の変化に対応できるかを点検し、必要に応じて見直すべきである。その際、健康状態、育児・介護、地域の就業機会等の制約から、能力形成や労働移動に直ちに取り組むことが難しい人についても、必要な生活支援が届くかを確認するほか、自発的には支援を利用しにくい人への「プッシュ型」の働きかけにも配慮すること。
また、雇用や所得の状況が大きく変化した際、制度が参照する所得情報や就労状況との時間差によって、実際の生活状況と給付・負担等の取扱いにずれが生じる場合がある。制度ごとの目的や実務上の制約を踏まえつつ、こうした変化を可能な限り適時に把握し、必要な制度上の判定や支援へ反映できる仕組みを整えることが重要である。例えば、給付付き税額控除など所得に応じた給付を検討する際にも、直近の所得変化を支給判断へ適時に反映する方法を併せて検討する必要がある。その際、申請・証明の負担や個人情報の保護に配慮し、デジタル手続を利用しにくい人にも必要な支援が届くことが求められる。
さらに、AI等を用いた業務指示、モニタリング、人事評価、労務管理の広がりを踏まえ、安全で信頼できるAIによって支えられた人間中心の職場形成を進め、働く人の権利と安全を守るとともに、その能力発揮を支えるべきである。企業においては、AIの利用目的や運用上の責任を明確にし、十分な説明・相談の機会の確保、労働者データの利用目的の明確化と不適切な目的外利用への対応、公平な処遇、心身の健康・安全等を確保するなど、職場におけるAIガバナンスを整備・見直すことが重要である。政府は、企業の取組を後押しするとともに、現場の課題を踏まえ、必要な制度・運用上の対応を進めるべきである。
参考文献(引用順)
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